もう一度、あなたと…
四国へ行くことも黙って決めて、両親の思いが詰まった家から離れて暮らすことも勝手に決めて……
一人で…やり直すなんてーーー

「…太一ってば…いつも言葉少な過ぎる…」

太一だけじゃない。
自分も彼を分かろうとしてなかった…。
ひかるに教えられるまで、彼の気持ちを推し量ろうともしなかった…。
自分だけが良ければいい…と、どこか勝手に判断してた……。


涙が勝手に零れ落ちる。おかげで前が見えない。
ひかるがどんな顔をしてるかも、全く見えていなかったーーー。


「……電話したら?」

その声に顔を上げた。
口角を上げながら、ひかるが私を見ていた。

「話をしなきゃいけないって言ったのエリカさんだろ⁉︎ 電話しなよ。杉野さんと、もっと話しなよ…」

にっこり笑いかけてくれる。
夢の中で、彼が見せてくれたのと同じ笑顔。
この顔だけは、ずっと…変わらないでいて欲しい……

「……うん…私、もう一度、あの人と話をする…」

意を決して頷く。

「今までしなかった分も含めて…全部…話し合う…」


10年分の感謝だけじゃない。
怒りも悲しみも切なさも……もっと沢山、埋め尽くさないといけない言葉がある。
一緒にいた時間に匹敵するくらい、多くの言葉をかけ合う必要があるーーーー。


ひかるに送ってもらいながら、太一との時間を考え直した。
離れて暮らしだした今、やっと、どんな関係でいたかったか見えてくる。

そして、隣にいる人と、これから…どうなっていきたいかもーーーー



……家に帰り、太一に電話した。
彼はスゴく驚いて、それから私に聞き返した。

「…どうした? 何か困り事か?」

いつでもそうだった…。太一はいつも、私の事を気にかけてくれた…。

「…違うよ。ただ、太一と話がしたかっただけ。電話じゃ上手く伝わらないかもしれないけど…一緒に話そう。時間が許す限り…」


ひかるに誘われて、テレビでやってた町並みを見に行ったと話した。
太一は時々頷くように相槌を打って、それからこう続けたーーー。

「あいつが、あまり気にしてるから、アドバイスしてやっただけだ!エリカには俺みたいな男より、宝田みたいな奴と一緒になる方がいいと思って…」

勝手に決めてる。
でも、これが太一のいい所なんだと改めて思い直した…。

「うん…私も…そんな気がするよ…」

嫉妬させたくてそう言った。呆れるように太一がボヤく。
こんな関係に、私は彼と…なりたかったんだーーーー。
< 83 / 90 >

この作品をシェア

pagetop