睡恋─彩國演武─

藍は炎で分身を造ると、自分と反対方向へと走らせた。


(頼むよ……!)


そちらに攻撃が集中すると、すかさず千霧の居る方へと向かった。

霧が濃くなり、視界が塞がれるが、藍は足を止めなかった。

立ち止まれば、待つのは敗北だけ。

彼自身の持つ、誇りを懸けた賭けだった。


「千霧!!」


名前を叫ぶと、小さく返事が返ってくる。


「藍!──どこ!?」


声が聞こえた方向へと走り、うっすらと見えた細い腕を掴んだ。


「千霧、こっちに──」


必死で走ってきたせいか、息が切れる。


「藍、ねぇ、どこ──!?」


「莫迦……ここにいるじゃ……」


ここに、居るじゃないか。

そう言おうとして、戸惑った。


コレハ本当ニ、千霧ノ腕カ──?


「ち……ぎり……?」


急に不安になって、腕を強く引いた。


《グェ》


不快な鳴き声と、気持ちの悪い湿り気。


「うぁっ!」


乱暴に振り払うと、二歩後退した。

疑心は確信へと変わる。

目の前に居るのは、千霧じゃない。


< 214 / 332 >

この作品をシェア

pagetop