ハロー、マイファーストレディ!

玄関の扉がガチャンと大げさな音を立てて閉まる。
同時に、身体を支えていた足の力が一気に抜けて、その場にへたりと座り込んだ。


『話を聞く気になったら、こちらにご連絡を。』

あの後、男を振り払うようにその場を離れようとした私に、彼は一枚の名刺を押しつけるように差し出してきた。

『この名刺は以前のものです。今、この会社に私の席はありませんから、連絡は裏に書いた携帯までお願いします。』

名刺を裏返せば、ボールペンで書かれた11桁の番号が並んでいた。

『もちろん、会社に連絡して、私が過去に在籍していたことを確認してもらっても構いませんよ。』

名刺の表面、特に最上段に書かれた社名を見て、私は激しく動揺した。


“竹田建設 開発事業本部 次長 久住敬”


竹田建設は、いわゆるスーパーゼネコンと呼ばれ、この国でも五本の指に入る大手だ。
そして、十年前──

硴野元に不正献金をしていた疑いを掛けられたのが、当時硴野の地元で大型の公共事業工事を複数受注していた、この竹田建設だった。

突然のことに訳も分からず、文字通り逃げ帰ってみたものの。
手に握りしめたままの名刺をどうしたらいいのか、戸惑っていた。
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