ハロー、マイファーストレディ!
「急に、声を掛けられたのか?」
「ええ、仕事帰りに……」
リビングテーブルの上、差し出した四角い紙切れを、征太郎は持ち上げて凝視する。
私が説明したとおり、裏側に手書きのナンバーが書かれているのを確認すると、しわくちゃのそれを、隣に座る谷崎さんに手渡した。
「すぐに調べろ。」
「ああ。」
指示される前からおそらく分かっていたのだろう、谷崎さんは素早くノートパソコンのキーボードをタッチしながら、どこかに電話を掛ける。
短い会話を済ますと、再び征太郎と私の会話に耳を傾けた。
「真依子、その男の特徴は?」
尋ねられて、記憶を辿って、出来るだけ詳細に伝える。
私の説明を聞いて、向かい側に座る二人は頷き合った。
「昨日の、あの男か?」
「可能性は高いな。」
私には分からない短い会話を二人で交わしてから、谷崎さんは私に向けて話し始める。
「大丈夫、僕に任せて。万が一、もう一度接触してきたら、すぐに連絡して。」
「はい、よろしくお願いします。」
「よく話してくれたね。真依子ちゃんが、冷静でいてくれてよかった。」
「そんな、私は……」
「征太郎を裏切って、この男に乗り換えるって手もあったのに。」
一瞬だが、自分の頭に浮かんだ選択肢を指摘されて、ドキリとする。それでも、私は何でも無いことのように答えた。
「たとえ口約束でも、契約したことを簡単に反故にはできません。」
その言葉を聞いた征太郎と谷崎さんは、再び無言で頷き合った。
本当は違う。
自分の気持ちを確認してしまった私に、残されていた選択肢は一つだけだった。
それだけのことだ。
彼との契約を全うすること。
あの壮大な計画の実現に手を尽くすこと。
たとえ、それが自分自身の幸せや復讐という目的に、結びつかなかったとしても。
落ちてしまった私には、もう他に道がなかった。