ハロー、マイファーストレディ!
あの後、座り込んだ玄関で再びスマホを持ち上げた私は、すぐに谷崎さんに連絡した。事の次第を簡単に伝えると、アパートまでいつものタクシーが迎えに来た。
指示された通りに乗り込めば、相変わらずのジェットコースターのような運転で、議員宿舎まで送り届けられる。
エントランスで待っていた谷崎さんに出迎えられ、初めて征太郎の部屋に足を踏み入れた。
しばらく征太郎が戻るのを待つよう言われたので、ソファに掛けて手持ち無沙汰で部屋を見回した。
その様子を見て、谷崎さんが簡単に説明をしてくれた。
どうやら、この議員会館は旧館らしい。
確かに、少し前に世間を騒がせていた、豪華マンション並みの新築の議員会館と比べると、質素で歴史を感じる佇まいだ。
旧館を割り当てられて、入居を拒んでいる議員もいるらしいが、征太郎は「こっちの方が交通の便が良い」ために自ら希望を出して住んでいるようで、「寝るだけだからこれで十分」らしい。
部屋の内装はリフォームしてあるようで、さほど古さは感じない。ふつうの感覚なら、この条件では破格の物件だ。
「気に入ったんなら、真依子ちゃんも、住めば?」
谷崎さんの問い掛けに、慌てて首を振る。
規則では家族以外の滞在は禁止されているが(これもまた、愛人を連れ込んだりする議員がいて幾度となく問題になっているらしい)「婚約者ならば家族同然なのですぐに越してきても問題ないんじゃない?」と言うのが、谷崎さんの見解だ。
一瞬だけ、征太郎と暮らすことを想像してしまい、思わず顔を赤らめてしまった。
それを、敏腕秘書は見逃すことはなかったらしい。「真依子ちゃんは、かわいいなぁ」とクスクス笑われた。
まずい、この調子では敏腕秘書に私の気持ちを悟られてしまう日も近いかもしれない。
私は気を引き締め直した。
その甲斐あってか、征太郎本人の登場にもさほど動揺はしなかった。
いつも通り、淡々と説明をし始めて、現在に至る。
私は、ゆっくりと肩の力を抜いた。