さちこのどんぐり
そんな大森の部屋は、
家具類を最小限に抑え、
木目の床と白と黒の壁に合わせたシンプルな印象の部屋…のはずだった。

だが、その部屋のドアを開けて、
広めのエントランスに置かれた「クマ柄の脚マット」とピンクのウサギがついたスリッパを見て、大森は膝から崩れ落ちた。


「また新しいもん持ち込んだな…」


奈津美が部屋に頻繁に遊びに来るようになってから、
大森を悩ませていることとは、これだった。

「おかえりー!かーたん!」

奈津美が迎えてくれた。
部屋のなかにも、またいろいろ「物」が増えている。


クマやら、アルパカやら、ウサギやら、カエルやらのグッズたち、
茶色にベージュにピンクにみどり…

この統一感のない色使いが大森には理解できない。


それでも
奈津美の笑顔に大森は毎日、癒されていた。

初めて焼肉を一緒に食べに行ったころ、
まさか奈津美とこんなふうになるなんて考えてもいなかった。

いまでも、本気でこんな年上の自分でいいのか?
と奈津美の気持ちを疑ってしまうことがある。

これまで何人かの女性と付き合ってきたが、ここまで年のはなれた女の子と付き合うのは初めてだった。

でも大森は屈託のない、明るく、かわいい奈津美との時間がとても楽しかった。
彼女とこうしていられる時間が、
そして奈津美そのものが、
大森にとって、かけがえのないものになっていた。

「シチュー温めてるから、もう少し待っててね」

そう言いいながら、対面式のキッチンの向こう側にいる奈津美を愛おしく見ながら、洗面所に向かった大森は、
そこで、これまたピンク色のネコが描かれた脚マットと黄色いヒヨコの形をしたタオルホルダーが新たに加わっているのを見て、再び膝から崩れ落ちた。
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