二人の『彼』
気分を改めようと、屯所の縁側に出たとき、見知った顔を見かけ、俺は目を瞬かせた。
「どうしてここに」
「っ……山崎さんが、連れてきてくれたの」
そういう先輩は、どこか気まずそうだけど、強い目をしていた。
先輩の頑固なのはよく知っているつもりだ。
きっと来るなと言っていたとしても、来たに違いない。
俺は先輩に心配をかけてばかりだ。
とりあえず屯所の、現在俺が当てられている部屋に上がってもらうことにした。
「篠宮くん、怪我は大丈夫……?」
俺の頭を見て、先輩は訊いてきた。
苦笑いしながら俺も答える。
「そんな大げさにしなくても良かったんだけどな。ただのかすり傷だし」
「でも……っ」
「これくらいの傷で済んだってことだよ」
近藤さんが止めてくれなければ、死んでいたかもしれない。
敵と戦った勲章にもなり得ないこの傷を心配されるのは、複雑な心境だった。
でも、今、先輩とちゃんと自然に話せてる。
それで十分な気がした。
「篠宮くん、私に何か出来ることがあったら言ってね」
先輩は、俺を安心させるようないつもの微笑みを浮かべる。
俺は、その微笑みを見て悟った。
悟って、しまった。
俺はいつだって、先輩にとってはただの可愛い後輩なんだ。
兄弟のように仲が良くて。
頼り頼られる関係で。
身内で異性じゃ、ない。
いつまでも家族のような関係なのに。
いつかは家族離れも巣立ちもする。
先輩の笑顔は、きっと『彼』に向けられるべきなんだ。
いつまでも俺だけのもの、というわけにはいかない。
真っ直ぐに先輩を見つめて、俺は言った。
「じゃあ……1つだけ、お願いしてもいいかな」
きっとこれが──最後だから。
兄弟のような後輩として──最後の願いを、聞いて。