TRIGGER!2
「何か大事なものをどこかに置き忘れてるのは確かで、それが何なのかすら思い出せない。そんな感じだったよ」
「・・・・・」


 彩香は黙っていた。
 それほど大きな存在だったサトシを忘れてしまっている事すら、覚えていなかったのだ。
 それでも一年ほど、処方される薬を何の疑いもなく飲み続けて。
 そんな時、本当にいきなり、サトシが店に現れた。


「最初はねぇ、笑っちゃうくらいに思い出せなかったんだ。新規のお客さんかと思ってね。いつものように、普通にバカげた話を1人でずうっとしててねぇ」


 懐かしむように微笑む。
 だが、サトシは一向に話さない。
 注文も言わないから、勝手に出すわよと手にしたのが、サトシがいつも飲んでいた銘柄の焼酎だった。
 それでも、目の前にいるのが誰なのか、思い出せない。
 どこかで会った事があるかとたずねても、変わらずに笑っているだけで。
 その日はそれで帰ってしまったが、ずっと彼の事が気になって仕方がない。
 また来てくれないかと待ち焦がれ、その想いがピークに達したとき、サトシはひょっこりと現れる。
 それを何度も繰り返しているうちに、だんだんと思い出して来たのだ。
 サトシが好きだったお酒。
 サトシが好きだった音楽。
 サトシが好きだった食べ物。
 そして。


「ようやく、思い出したんだよ。あぁ、サトシは死んだんだ、ってね」


 彩香は少し、首を傾げた。
 目の前にサトシが居るのに、どうして死んだのを思い出せるのか。
 普通なら、目の前の人物が本物のサトシだと思い込んでしまうのではないか。
 サトシが死んだという事実を受け止められなくて、目を背けたくて、佐久間の薬を止められなかったのだから。
 それを聞いたら、立川は逆に、そんな質問を何故してくるのかと、彩香に聞いてきた。


「大事な人が本物か偽物か見分けられないなんて、あり得る?」
「いやまぁ、そりゃあね」


 四階のヤツの変装の技術は、信じられないくらいにレベルが高い。
 ホクロが無ければ絶対に見分けられない。
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