TRIGGER!2
「話が聞けて良かった。運がいいなオバサン、この怪我で助かるなんてさ」


 言いながらも彩香は、“ムスク”のバーテンダーの事を思い出していた。
 彼の『小百合ちゃん』も、このママと同じような事情を抱えていたに違いない。
 だが彼は助からなかったーー。


「あの人は他にも、あたしのサトシみたいな役割をしていたのかい?」
「ーーあぁ。昨日の夜、あんたの他に2人が襲われて・・・死んだ」


 正直に、彩香は言う。
 繁華街は狭い。
 ここで嘘をついても、立川が退院したときに誰かから聞いてしまうだろうから。
 立川は、静かに酸素マスクを元に戻す。


「少し、眠るよ・・・」
「分かった。あたしは峯口彩香。退院したら教えろよ、飲みに行くからさ」


 それには答えずに、立川は深く息を吐いた。
 まだ麻酔が完全に切れてないのかも知れない。


「ありがとうね」


 ドアに手を掛けた彩香の背中に、立川は声を掛けた。


「目が覚めた時に居てくれて・・・ありがとうね」


 そんな言葉を聞いて、彩香はそっと、病室を後にする。



☆  ☆  ☆



 屋上の風に吹かれながら、彩香は今日も暑くなりそうな空を見上げていた。
 こんな格好をさせられて、タバコがないのが悔やまれる。
 最近の病院は喫煙場所すらない。
 だから屋上でコッソリ吸おうと思ったのに。


「・・・・・」


 もうすっかり太陽は昇り、人々はまた変わらない1日を生きる。
 そんな様子は、彩香には眩しすぎて、まともに直視出来なかった。
 やっぱり自分は、夜の闇の中での方が身軽に動けると、改めて実感した。
 まぁ、人間の半分くらいは彩香と同じ人種なのだろう。
 特にこの街には、そんな人種が多いだけで。
 爽やかな朝の空気を堪能しながら、彩香は穏やかな気持ちで、屋上からの景色を眺めていた。
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