山桜
『近藤先生、間違いなく日本はこれから激動の時代に突入します
現在水戸藩の動きが不穏です
何かよからぬことを企んでいなきゃいいのですが…』

近藤は遮るように手を前に出した

『天下の動きは私には解りません
しかし、私も含め天然理心流がその動きの中に加わることもないでしょう…
私は多摩の百姓の出です
父、周助もまた、私と同じ百姓の出…
世に出ることすら許されないでしょう』

山南は言葉が出なかった
近藤は国に対する忠義はあるが、自分の出身を気にするがあまり、世に出るのを躊躇っているのだ

近藤の心の奥底に眠る望みとは何か
山南はそれが知りたくなっていた

『近藤さん、私には幕府の役人とも数人繋がりはあります
もしよろしければ近藤先生のお話をさせてもらってもいいですか?』

近藤は首を横に振った

『こんな貧乏道場の人間を紹介しては山南さんの顔が汚れてしまいます
お話はありがたいが辞退させていただきます』

山南は手を前についた

『近藤先生、あなたは国のために働くとおっしゃった
ならば私を使い、その道を開こうとは思わないのですか?』

山南の熱心な言葉に、近藤は少しため息をついた

『私は百姓の出ですが、養子に入り、表向きら武士という身分になりました
私は武士となった以上、姑息な手を使ってまで出世したくはない
武士たる者、剣で身を立てるべき…と思っております』

山南は頭を上げた

『では、その剣を私に身をもって見せてはいただけませんか…?』

その目は近藤を真っ直ぐに見つめている
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