艶麗な夜華
「おはよう」



続きを話す訳にもいかず、


あたしはダスターを持ってボックス席へと行った。



恭也はコートを脱ぐヤスとキンにタクミさんの事を話す。



「店開くとか言って、


さっきタクミが挨拶に来た」



「「えっ…」」



2人の動きが止まる。



この前ヒカリさんの口からタクミさんの名前が出た時、


なんとなく恭也の様子が変わったように見えた。



そして今、タクミさんの事を聞いた2人の様子はあからさまにおかしい。



「今月の25日オープン。


店の名前はファウストだってさ。


どういうつもりでそんな店名にしたんだか」



「気に入らない……」



ヤスはそう呟くとイライラした顔でコートをハンガーに掛けた。





「ねぇ…ファウストってどういう意味?」



あたしの質問に、意外にも恭也が答えてくれた。



「ファウストは、自らの魂と引き換えにメフィストフェレスを召喚して、


自分の欲望を満たそうとした降霊技師の事だ」



なんだそれ??



メフィストフェレスは此処のお店の名前。



「それって……なにかの物語?」



首を傾げるあたしに、


質問の答えとは違う話をするキン。



「俺達にとってのファウストはお客さん。


魂と引き換えに召喚された訳じゃないし、


全ての欲望を満たせる訳じゃないけれど、


俺達はそのくらいお客さんに尽くすって事だよ」


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