オオカミと少女
しかし、ナターシャはそのオオカミ自身に見覚えがあった。
ふと、兄のサイオが死んだ日のことを思い出す。
このオオカミの赤い目は倒れたサイオを見て、それから顔を上げてこちらを見たオオカミの赤い細い目にそっくりなのだ。
「あなたは、兄さんの…」
「ウァァァアア…」
オオカミは唸り声をあげて空を見上げた。
「あ、あ…!月が沈むのね!」
ナターシャがそう言ったとき、オオカミは細い目を閉じた。
オオカミはどこか苦しそうで、ナターシャは見ていられなくなって目を閉じる。
次にナターシャが目を開けたのは誰かに抱きしめられたのを感じたときだった。
もちろん抱きしめているのはイーサンで、ナターシャはイーサンの頰に触れた。
「イーサン!体は?大丈夫なの?」
イーサンは何も言わず、悲しげに笑った。
その目の下のクマはもっと濃くなり、イーサンを弱々しく見せていた。
「………」