オオカミと少女
あの時の少女に間違いない。
自分に駆け寄って怪我の手当てをしてくれたナターシャを見て、イーサンはそう思った。
大雨だったあの日
暗闇の中こちらを見ていたあの少女も、自分より少し歳下ぐらいだった。
何より、目の色が同じなのだ。
「何で、今まで気づかなかったんだろう。あの時の少女はナターシャだ。
間違いない。」
イーサンの目から涙が溢れ出した。
もう止められなかった。
「俺が、憎いだろう?」
「いいえ。」
「嘘はいい。」
「嘘じゃないわ。
本当に憎くなんかない。」
ナターシャはイーサンを落ち着かせるようにその背中をさすった。
「…兄さんが死んだのは、心臓の病気よ。店に来てくれた時、言ったでしょう?」
ナターシャは悲しげに笑った。
「…大雨だったけど、あの日は満月だった。あたしの、14歳の誕生日の日。」
「た、んじょうび…」
ああ
神が本当にいるんだったら、恨みたい。
こんな残酷なことはない。
「仕方ないのよ。兄さんが死んだのは、仕方のないことだったの。」
「そんなこと、ない!あの時俺はナターシャの兄を殺したんだ…!」
そう、あなたが殺した。
あなたが憎い。
そうナターシャに告げられるのが怖くて
なら、先に言ってやれと
イーサンは混乱していた。
「いいえ、あなたは殺してない。
私知ってるもの。
あなたは兄さんを襲おうとはしたけど、直前で思い留まったでしょ?
兄さんのカーディガンは裂けたのに傷を負っていなかったのが何よりの証拠よ。
あなたは兄さんに危害を加えてない。
それは私が1番良く分かってる。
昔から、憎んでなんかなかったのよ。」