飼い猫と、番犬。【完結】
「貴方っ」
「すまん、流石に限界や」
私を跨ぐようにして膝をついた山崎は何故かすんなりと謝って、ぽすりと布団に頭を垂れた。
頬に流れた髪からそいつの匂いが香る。
覆い被さられた形で天井が目に入って、また掌に汗をかいた。
「なっ、何が」
「んな声で抱き付かれたら我慢ならん。ちゅーことで総ちゃん、責任、とって?」
ぺろん。
ざらついた何かが頬を這って。
ぼん、と頭が沸騰した。
「誰がとるかーっ!!!」
世の中はきっとこれを火事場の馬鹿力と呼ぶのだろう。
何をどうやったかはわからないけれど、へ?、と間抜けな声を漏らして横に飛んでった山崎がポカンとひっくり返っている隙に急いで立ち上がる。
「戻りますっ!」
前を向いたままそれだけを吐き捨て、部屋から逃げた。
……舐められた舐められた舐められたっ!
湿った空気、足裏に吸い付く廊下を駆けて角を曲がると、少しだけその速度を緩める。
まだ心の臓がばくばくいってて五月蝿い。
足元の木目を睨み付けながら火照った頬をおもいっきりつねって、あがった息を深く吐き出した。
くそぅあの馬鹿……お礼、言えなかったじゃないですか。