飼い猫と、番犬。【完結】
飄々と助兵衛なあいつに、お礼どころか昨日の話題すら口に出来なかった。
何故あそこにいたのかとか、何と報告したのかとか。聞きたいことも少しはあったのに。
まぁ、昨日の事で気を使われるよりは、いつも通りだったあいつに多少安心もしたのだけれど。
……もしかしたら、それもあいつが気を使って?
ついそんな風に思ってしまった自分に驚いて、ふるふると首を振った。
池田屋や山南さんの事があったからだろう、昨日も無意識にあいつの顔が頭に浮かんでしまった。
よりによって土方さんでも一くんでもなく、あの人に助けを求めるなんて。
……信用し過ぎ、です。
そう自らを戒め、頬を摘まんでいた指を離す。ジンジンと熱を持った頬を今度は指の腹で押さえて、溜め息をついた。
雨の所為で空は暗いが、恐らくもうじき朝稽古が始まる頃合いだ。
胴着は勿論部屋にある。
あの、部屋に。
もしあそこで平助が私を待っていたらと思うと少し憂鬱で、もやもやする。流石に昨日の今日だ、やっぱりまだちょっと顔は合わせ辛い。
そんなことを考えていれば不意にあの時の感触が甦って、そっと唇に触れる。
あんな平助は初めてだった。
己の全てでぶつかってくるような激しい口付け。力付くで押さえ込まれると全くといって良い程敵わなくて、あのまま山崎が来なければと考えただけでぞくりと恐怖が甦る。
今まで一度たりともそんな目で見たことはなかったけれど、昨日、改めて彼も男なのだと思い知らされた。
そして、どれだけ否定しても私は女なのだと。