飼い猫と、番犬。【完結】
「……ぁ、お、はよ」
立ち上がりながら微かに笑顔を作りかけて、平助はすぐに眉を下げて顔を歪める。
昨日の荒々しさが嘘だったかのように覚束ないその様子に、私まで酷く申し訳ない気持ちになる。
また足が動かなくなって、少しの距離を空けて平助と向き合った。
「……その、昨日は……ごめん」
「……うん」
良いよとも、気にしてないとも言えず、そんな言葉しか出て来ない。
さあさあと雨の音だけが静かに聞こえる気不味い空間。いざ本人を目の前にすると考えていた言葉は簡単に頭から消えてしまった。
焦りと緊張感に乾いた唇を舐めて、視線を泳がせる。
そんな居心地の悪い空気の中で、『でも』と平助の声が聞こえた。
「俺は、ずっと総司が好きだった。それだけはわかってて欲しい」
思わず泣きそうになって、唇を噛む。
真っ直ぐに向けられた平助の想いに気付かなかった自分に。嬉しいとは思うものの、きっとこれから先もその気持ちには応えられないだろう自分に怒りにも似た感情すら湧いて、ぎゅっと拳を握った。
「平」
「ごめん、今は何も言わないで」
言いかけた私に言葉を被せて、ふっと苦笑いになった平助がぽりぽりと首の後ろを掻く。
「まだちょっと、聞きたくないや」
その悲しげな笑みに、また胸の奥がきゅうっと縮んだ。