飼い猫と、番犬。【完結】
平助はわかっているのだ、私がそんな対象で平助を見る事はないないという事を。
申し訳なくも思いつつ、私には何も言うことが出来なくて、ただ親指を握って俯く。
けれどもう沈黙は続かなかった。
「我が儘言ってごめんね。昨日も……ごめん。それでね、今晩から左之さんと部屋、変えてもらう事にしたから」
「え?」
無理矢理明るく抑揚をつけて話す平助の言葉に顔を上げると、一瞬、くっと泣きそうに目が細められた。
「ごめん、じゃあ」
「っ、平助!」
背を向け、逃げるように走っていく平助を追いかけようと手を伸ばして、立ち止まる。
やはり掛ける言葉に迷ったのと、それも良いのかもしれないと思えたからだ。
互いに無理して近くにいるよりも、今は少し距離を空けた方がゆっくりと考えられる気がする。
落ち着いて、それでも平助が言葉を望まずこれまで通りを求めるのなら、山崎の言う通り忘れてしまえば良い。
正直、今はまだ私も心の整理がついていない。
出来れば今までみたいにと望むのは狡いような気もするけれど、やっぱり平助は大切で、失いたくはないから。
行き場を失った手をそっと下ろして空(クウ)を握る。
それでも今日の稽古にはどうしても出る気にはなれず、昨夜からの事を考えながら自室で一人布団にくるまり、皆の気配が戻ってくるのを待った。