ひねくれ作家様の偏愛
振り向くと飯田がいた。
呟きを聞かれてしまったことと、海東くんが来ているということに二重の驚きを覚える。


「俺、桜庭呼んでくるって言っちゃったからさ。行ってみてよ」


「うん……わかったけど」


海東くんの先日の様子が思い出された。
私にかけたような妙な疑いを、飯田にまで口にしてはいないだろうか。


「何も変な会話してないから。早くしないと、帰っちゃうぞ。あの大センセ」


飯田の見透かしたような発言が気になるものの、私は彼のいるらしい受付へ向かった。

定時後の受付は無人だ。
外から戻ってきた社員が私の横を通り過ぎる。
みんな急な雨にやられたようだ。肩も頭もしっとりと濡れている。

夜半は降るという予報だったけれど、もう降り出したみたい。

受付横の打ち合わせスペースに海東くんはいた。
オープンスペースなのだけど、遠目でも彼が雨にやられたことはわかった。
水分でシャツが背中に張り付いている。
髪からも雫が落ちそうだ。


「寒くない?」


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