ひねくれ作家様の偏愛
「とはいえ、人多過ぎ。外でない?」


飯田に促され、私は手の中のシャンパンを一息で飲み干すと、あとに続いた。

バンケットルームは15階にあり、屋上庭園に面している。
室内の一面はガラス張りで、付随したドアを開けると屋上庭園へ出られる仕組みだ。


「あー、思ったより暑くねぇや。助かったー」


飯田が夜空に向かって伸びをする。
すでに夏と言っていい季節になっていた。


「桜庭、海東センセの連載決まったって?」


ぽつんと聞かれ、私は飯田の方を振り向いた。


「おかげさまで。……知ってたんだ」


「このまえ、うちの原稿の件で会ったんだけど、本人に言われた。ドヤ顔で」


私は海東くんの勝ち誇った顔を想像して笑ってしまう。
自分を軽んじる飯田のことを彼は敵対視していたから、さぞ嬉しかっただろうな。


「ずっとやりたくないって渋ってた乙女ゲーのシナリオも、丸々書き下ろすって。よろしくお願いしますって頭下げてきたよ。どーなっちゃってるんだか」


「そうなんだ……」
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