ストックホルム・シンドローム


今、僕の目の前にいるのは、チアキよりも愛しい人…。


「…好きだよ、心の底から。
 誰よりも深く、沙奈を愛してる」


震え、怯える彼女の頬を両手で優しく包み、僕は彼女の桜色の唇に口付ける。


――沙奈の唇は甘美で柔らかく、極上の
赤い禁断の果実…"りんご"の味がした。


「ん…ふぅ…っ」


卑猥な水音が、部屋の中に響く。


沙奈の口内を満遍なく味わいながら、僕は目をつぶった。


…沙奈には。


顔を見られたく、ないんだ。


沙奈には、僕の顔じゃなくて…こんなおぞましい容姿じゃあなくて、愛を、見て欲しい。


僕の心を、受け取ってほしいんだ。


見かけだけじゃない、本当の…。


「…愛してる」


沙奈の唇から顔を離し、僕は、耳元で囁いた。


僕の身体全体に、沙奈の鼓動を感じる。


速く、速く、はやい、命を繋ぐ彼女の鼓動を。


「…愛してる」


沙奈は唇を強く噛み、顔を真っ赤にさせていた。


…好きだ、沙奈。


僕は沙奈から離れると、彼女に微笑みかけた。


壁にもたれかかり足を伸ばして座ると、沙奈と話しを続ける。


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