いと。
「来てるかな…?あ。」
マンション前の駐車場が見えてきたのと同時に薫の車が滑り込んでくるのを見つけ、思わず顔が綻んだ。それを喜ぶように身体は自然と急ぐ。
黒塗りのセダンの隣にさらりと駐車し、私に気づいた薫が笑顔で降りてくる。
「おかえり、愛。」
私が大好きな甘い笑顔。
ゆるく括った髪。
しなやかで大きくて、並んで歩く時いつも私に添えてくれる大きな手。
その全てにまた心が弾み、穏やかになった。
「ただいま。いらっしゃい、薫。」
「お邪魔するよ。」
クスクスと笑いあってエントランスに向かって歩いていると、薫の車の隣にいたそのセダンの後席ドアが開く音が聞こえた。
ガチャリと無機質な音。かつりと地面に降りる靴音。続いて聞こえたのは、
「まて、愛。」
私がこの世で一番大嫌いな声だった。