いと。
エレベーターが降りる機械音にさえイライラしてしまう。
バタン!
車に乗り込み、乱暴にドアを閉める。
「………くそっ!」
いつかのようにドンとハンドルを叩くとやはりいつかのように重く振動が返ってきた。
「………はぁ。」
…こんなはずじゃなかった。特別な日に…するはずだったんだ。
ふと目に止まった助手席に投げこまれたバッグを手に取り、徐にその中ある『箱』を取り出す。
まさに純白のその小さな箱を開けると中にあったのは深紅のベルベットのケース。
少し抵抗のかかるその口をコトッと開けるとそこに収まっていたのは、ダイヤを散りばめた指輪だった。
愛の華奢な指にも映えるだろうと時間をかけて選んだ指輪。
コレを……渡すつもりだった。
愛してるってたくさん伝えて…たくさんキスをして…。
でもとてもそんな雰囲気ではなかった。怒りに任せて怒鳴ってしまった。
「あ~あ、…やっちゃったな。」
シンクを叩く音、倒れて溢れたコーヒー、
驚きと不安と悲しみの入り混じった愛の顔。
…きっと今頃愛は泣いている。せっかくの休日だというのに彼女は今日1日を最低の気分で過ごすんだろう……。
ケースを箱に戻し、バッグにしまう。
エンジンをかけ、………これでいいわけないとわかっていながらもそのまま車を発進させた。