いと。
泣きはらした目でシンクを見つめる。
倒れたマグカップ、溢れたコーヒー、香ばしい香り………。
初めて見た薫が本気で怒った姿。
私は本当はわかっていたんだ。父が本気でいたことを。
それなのに…、目を背けた。
不安に押しつぶされそうで見てみないフリをした。
逃げたんだ。
ただ薫がそばにいればいいと、自分をごまかして。
挙句、身体はボロボロ、手には不甲斐なさの証拠とばかりに傷を作り、散々周囲に迷惑をかけ………薫を怒らせた。
子供のように逃げるばかりの私を、誰が愛しいと思ってくれる?
きっと薫も幻滅した。…もう戻らないかもしれない。
「…っ。………薫…薫………。」
声にならない声は、愛しい人には届かない。