いと。
カウンターに座った結衣は出したコーヒーに手をつけることなく、突然切り出した。
「薫…。実はね、あなたには子供がいるの。」
言葉とともに差し出されたのは一枚の写真だった。
そこに映っていたのは、結衣と…頬を寄せて笑う幼い女の子。
「これ…は?…お前、何言ってるんだ?」
にわかには信じがたい突拍子もない話はとてもじゃないけど受け入れられるわけもなく、俺はその写真を突っぱねた。
「………まぁ、いきなりこんなこと言われて混乱するのもわかるけど、本当なの。
あなたがどう思っても、それは揺るぎない事実よ。
だから……勝手言ってるってわかってるけど、やり直したいの。
一緒に暮らして欲しい。この子の…薫子のためにも。」
結衣はまっすぐ俺の目を見てそう言った。
…そうだ。覚えてる。これはこいつが自信と信念を持った時の顔だ。
でも………
「お前…今更何言ってるんだ?
俺はあの時お前とのことを真剣に考えてたんだぞ!?
まだ若かったけれど、『この先の将来を一緒に過ごしたい』そう言った。それを断ったのはお前だ!
…なぁ、お前別れ際俺に何て言った?
『まだまだ一人の男に人生を縛られるなんて嫌。自分の人生を好きに生きたい』
そう言っただろうが!
それを5年近く経った今になって子供がいる!?やり直したい!?
やめてくれよ!
……その子が間違いなく俺の子供だって言うなら養育費は払うよ。でもお前とやり直すのは無理だ。」
俺には愛がいる。今の俺には彼女とこの店が全て。それを、誰にも壊されたくない。
頭に血が上って息巻いて話す俺を、結衣は黙って見つめていた。
そしてひとつ、小さく溜息をついて写真の中の薫子という女の子を指で撫でた。
「…あの子がお腹にいるとわかったのはあなたと別れて少し経った頃だった。
すぐに連絡を取ろうとしたけれどその時にはあなたはもうあの街にはいなくて…。
行き先もわからなかったし、携帯も繋がらなくなってたし、親に散々反対されたけど一人で育てる決意をして産んだの。
そして産まれた子はあなたによく似てて…。別れたことを……本気で後悔したわ。
日に日に育つあの子を見てたら薫にも見せたいなって思って…そのうち、薫に会いたいって思うようになって…。」
「……………。」
「でも別れを選んだのは私。そう腹を括って今まで頑張って育ててきたわ。
だけどね…状況が変わったの。
……お願い。私を愛せないならそれでもいい。この子だけは愛してやってほしい。
薫子には…父親と母親両方が揃った、あったかい家庭をあげたいの。」