いと。

「………ん…。」

気がつくと、見知らぬベッドの上だった。

「ここ…は?」

静かにゆっくりと身体を起こして浮遊感の中、辺りを見回す。

室内は常夜灯の小さな淡いオレンジの灯だけで、どこに何があるかはわからない。

………実家に戻されたわけじゃないみたいだけど。

でも、どこだとしても私の居場所じゃない。

「……っ!………はぁ。」

頭や視線を動かすだけで襲ってくるめまいと冷や汗。

この身体で外に出られる?

「とにかくここ、出なきゃ。」

僅かな灯をたよりにバッグを探す。

「あ…った。」

ベッドサイドのテーブルにそれを見つけ恐る恐る立ち上がる。

「…あ、や…ばっ!」

思ったより言うことを聞かない身体は無情にも崩れ落ち、思わず手をついたテーブルから落ちたバッグはどさりと音を立てた。

悔しい。自分の身体さえ思うように動かせないなんて。

…こんな身体、捨ててしまいたい。

「はぁ…、はぁ…っ!」

ーカチャリー


「………何してんだよ。暴れんな。」


声の主は当然というか、やっぱり戸澤さんだった。

冷たい声の後にパチリとつけられた室内灯。

「…やっ!ま…ぶし…っ!」

急激に明るく開かれた視界に耐えきれずに起きためまいにまた引きずられる。

それを堪えようと反射的に両手で顔を抑えると、ぎゅっと胸に顔を押さえつけて抱きしめられる感覚と…微かに、スパイシーで甘い香りがした。

灯を背に、膝をついて覆いかぶさるように私を抱く彼から、小さく溜息が漏れる。

「悪い。急激な視界の変化はダメなんだったな。大丈夫か?」

降ってきたのは気遣いの言葉。

でも、こんな風に抱きしめられたくなんかない。

「離して…!私、帰り……」

「どこに?」

「…あ…なたには関係ない。いいから離してっ!」

腕を引っ張ったり胸を押したりするけれど離してくれる気配は一向になくて…それどころか更に、その腕に力がこもる。

「…ちょ…っとっ!私…は、あなたのものじゃない!やだ…やめて…よ。」

抵抗する力さえ封じられて、なす術がない。

「お前は、オレのものだよ。もう誰にも触らせない。」

…………オレのもの?

「……………違う。私は…」

「あいつのもの?」

あいつ………?

「………違う。もう違う。私はもう、誰のものにもならない。

だから離して。」

「…………。」

「やっ!?」

一度出たベッドにまた降ろされる。

起き上がろうとしたけれど、身体はなぜかだいぶ疲れていて…腕を上げる力さえ、もう残っていなかった。

「…とにかく、しばらくはここにいろ。それが嫌ならお前の父親の所に戻す。

………いいな。」

「そんなの…断る。ここは私の居場所じゃない。」

「…あ?居場所なんかどこかにあったか?

いいから………ちゃんと治せ。

今日はもう遅いから寝ろ。」

灯を常夜灯に戻し、彼は静かに部屋を出て行った。

「……………もう、最悪。」

この間までと態度も口調も全然違うじゃない。こっちが本当の姿なんだ。

でも…とにかくこの身体をなんとかしないとどうにもならないのは事実だ。

それまでは、ここにいることも我慢しなきゃいけないかもしれない。


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