いと。

結衣の表情は一気に沈んだ。

握られていた拳は力なく解かれ、だらりと下がった。

「………何で?

何でなの?何で私を見てくれないの?

薫の子供だって産んだのに。あなたをずっと…想ってきたのに。

どうして私を愛してくれないの…。」

俯きながら呟く姿は痛々しく、いたたまれなかった。

「結衣……。」

「いい。先に関係を清算したのは私だもん。しかも一方的に。

…また愛してなんて言う資格、ない。」

「……………。」

『ごめん』

そう肩に手を伸ばすと、

「でもねっ!」

「…っ!?」

急に歪んだ笑顔を向けてきた。

「薫はもうすぐ、必ず私たちのところに来るよ。…絶対。私は、薫子とそれを待つ。

………じゃあね、パパ。」

結衣はそう言い残し、カツカツとヒールを鳴らして帰っていった。


< 302 / 561 >

この作品をシェア

pagetop