いと。

「…おい。………おい。………愛!」

「……っ!」

急に名前を呼ばれてはたと気づいた。

「あ…れ?眠って……」

7時…くらいまでは記憶がある。食欲がなかったけど薬だけはと思って冷蔵庫にあったトマトジュースでそれを流し込んだ。

その後ソファに座って………やだ、みっともない。こんな姿を見られたなんて。

「す…みません。寝てたみたいで…。

というか、愛って呼ばないでください!

もう誰も、その名前で呼ばせるつもりないですから。」

ひとりで強く生きていくのに、呪われた名前なんて引きずりたくはない。

「……妻を名前で呼んで何がわりい?

それよりメシ食ったのか?薬は?

顔色はいくらかいいけど、少しは動けるのか?」

私の意見なんか聞きもしない戸澤さんはそこまで言うとスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを外しながらキッチンへ向かった。

「………はぁ。食べてないだろ。」

無機質な声が響く。

その視線はミネストローネがまだ少し残っている鍋に注がれていた。

「いえ、ちゃんといただきましたよ。今朝は。美味しかったです。

花井さんに聞きました。お料理なさるんですね。意外でした。」

「……………食べた?これで?」

……そうか、知らないのか。

「あ、えーと…私、極端に少食なので。」


< 317 / 561 >

この作品をシェア

pagetop