いと。
マンションに着いたのは昼頃で、洗濯機を回しながら昼食の支度を始めた。
「………なぁ。」
ダイニングテーブルで経済誌を読み始めた戸澤さんにコーヒーを出すとぽつりと、呼ぶ声が聞こえた。
「…はい?何ですか?」
「……………。」
「…戸澤さん?」
私を見上げた顔は真剣そのもので、言い渋る様子に少し不安を感じる程だった。
「LINKに、戻りたいか?」
「…………え?」
聞こえたのは思いもよらない言葉だった。
「LINK。無理やりだったろ。辞めたの。」
「そう…ですけど、何で急に。」
心なしか返しに棘がこもる。
「さっき、店を見る目が違ってた。だから、戻りたいのかと思って。」
………気づいてたんだ。だから店を出たんだ。
言いようのないモヤモヤした感情が次第に大きくなるのがわかる。
辞めさせた張本人に戻りたいのかなんて聞かれたくない。
あそこが私にとってどんな場所だったか、この人は知ってるはずなんだ。
「だからって何ですか?もう…過去になってしまったことです。
それとも、無理やり辞めさせたから今度は戻れるように取り計らってくれるとでも?」
「………お前がそれを望むなら可能だろ。してやれないことじゃない。
ただ、すまないがこちらの都合に合わせて時期を見ることにはなる。今すぐは…」
「なっ!
………どこまで私を都合よく扱う気なんですか?大体、今更戻るつもりはありません!
………お昼、自分で食べてください。」
不快極まりないやりとりに我慢が出来ずにリビングを出ようとすると、
「おい!待てよ。」
「…った…!」
勢いよく腕を掴まれ、怯んでしまった。
「…っ!わる…い。でも、話聞けよ。」
「ムリです。今の私冷静じゃないので聞きたくありません。」
俯いたまま力の弱くなった腕を振り解いてリビングを出ると、戸澤さんはそのまま追いかけるように後を追ってきた。
「お前どこに…!」
玄関でヒールを履きドアに手をかけたところで肩を掴まれ、イライラがピークに達する。
「離して!触らないで!」
怒りの視線を精一杯向けてから目を伏せる。…もう顔も見たくなかった。
やっぱりこの人を愛せるわけない。
ガチャ…バタン!
そのまま……あてもなくマンションを出た。