いと。
それから曜は少しずつ、自分のことを話してくれた。
ずっとホテルを守ってきたおじいさんが数年前に病気を理由に引退せざるを得なかったこと。
その流れの中で父親が実権を握り、一部の部下と共に権力で周囲を従わせ裏でたくさんの人や会社を陥れるようになったこと。
それが原因で組織内はガタガタ。以前のような格式ある堂々としたホテルではなくなりつつあると感じている人もいるということ。
「祖父は父と違いオレたち兄弟を本当によく可愛がってくれた。
ただ父は兄はいずれ後に据えてという気はあったらしい。数年前にホテル経営なんかを学ばせるため渡英させた。
それをキッカケに兄と決めたんだ。
ホテルを取り戻すと。
兄は動けない祖父の代わりに水面下で動いてる。父を引き摺り下ろし、祖父がいた頃のように健全で格式あるホテルを作り直すんだ。」
曜の切れ長の瞳はまっすぐで揺るがない。
「兄が動いていることを父は知らない。オレは父の懐に入り、言われた通りに従って兄の動きをカモフラージュしながら状況とタイミングを計ってる。
…強引なやり方もしてきた。
その過程でましろとの話が持ち上がり、愛を知ったんだ。父は今、飲食の力が欲しいからな。
祖父はかなり回復してきているし、元々人望があるから協力者は多い。
……もう少しなんだ。もう少しで全てが動く。」
「………。」
握られた拳は、きっと大変な思いをして努力をしてきた証だ。
「終わったらオレは組織からも家からも離れて自立する。それがずっと小さい頃からの願いだったから。
だから、………結婚しよ。
夫婦になっていれば、父がましろから手を引くことになってももう君の父親も手を出せない。
解放される。
ずっと苦しんでた関係を清算できる。」
「…曜………。」
私のことも、考えてくれているんだ。
「最初は……籍さえ入れてしまえばそれでいいと思ってた。
オレにとっては愛やましろは兄が動いているのをカモフラージュするためのエサだったから。
全てが済んだら離婚すればいいと。
でも………本気で欲しくなったんだ。
手放したくない。
愛と幸せになりたい。」
拳を握っていた手は解かれ、向かい合った膝の上で私の手を愛おしそうに撫でる。
そんな中一瞬、その少し薄い唇がキュッと結ばれ切ない視線を向けられた。
「もし…、もし愛がまだあいつのことを忘れられないとしても………、」
ドクリと心臓が鳴ったのは、心の奥深くに僅かに燻る想いを見透されていたからだ。
「曜………。」
「それはそれでいい。それだけ真剣に向き合ってきた証拠なんだから簡単に忘れられなくて当然。
でも…絶対オレを選んで良かったって言わせてみせる。
俺じゃなきゃダメだって思わせてみせる。
あいつのことを好きだった以上にオレに惚れさせてやる。
一生かけてお前を愛していく。
…………これで、言うのは最後にする。
愛………。オレと、結婚して。」
真摯に見つめるメガネの奥の瞳はまっすぐに私との未来を見据えているようだった。