いと。
バッグを探り、化粧ポーチを出す。
『人前に立つ仕事なんだから常に化粧はし直せるように一式持ち歩きなさい。』
それは店長の教えだ。
いつか持っていなくて怒られたことがある。
その時は、
『千回に一回、持っていなくて後悔するかもしれないわよ。』
そう言われたのだ。
まさかそれを今日実感するとは。
…持っててよかった。
そんなにバッチリとメイクする方ではないけれど、スッピンを晒して帰れるほどの図太さはまだ持っていない。
コートは濡れちゃって着られないけど、ワンピースは少しエアコンの風を当てれば乾きそうな程度だし下着は幸い無事だ。
これ以上は迷惑かけられない。
「…っと、早くしなきゃ。」
ずぶ濡れになりながら連れてきてくれた彼を思い、借りたシャツを着てブランケットを羽織ると、私は急いでリビングへ戻った。