いと。
何も言えなかった。
言葉が出なかった。
母が私を、『娘』として理解してくれている。
憎むでもなく、拒絶するでもなく、涙を流して…私に触れている。
今まで一度も、手を握るどころか指一本触れることはなかったのに。
「………お母さん………。」
「ごめんね。愛…。本当に、ごめん。」
涙を流す母は本当に苦しそうで、後から後から流れる涙が後悔の大きさを表していた。
「……ううん。もう、いい。
それだけ苦しい思いをして産んだってわかってるから、いい。
私は、曜と幸せになるから…おかあ」
「ダメ!」
一瞬で変わった表情は目を見開き、紅茶の置かれた小さなテーブル越しの私の肩を力を込めて掴む。
「………お母さん?」
「ダメ。とにかくすぐに別れなさい。もう会ってはダメ。いいわね?」
焦っているともとれる口調は強く攻撃的で決して許さないという意思を含んでいると一瞬でわかるほどだ。
まるで、理由がわからない。
「…なんで!?私たちもう一緒に暮らしてる。
気持ちは通じ合ってるけど元々は家同士で先に決めてたことなんだから親だって了承済みだよ!?」
動揺しながら訴えるようにそう言うと、母はさらに驚いた様子で呟いた。
「…了承?……ウソでしょ?だってあの男はわかってるはず…」
「あの…男?……お母さん?わかってるって何?」
「………………」
言い澱む顔は悲しく苦しく歪んでいる。
一体何を…知っているのか。
でも私だって、苦しい思いを乗り越えて曜のそばにいるって決めたんだ。
「お母さん!」
答えを急かすと母は、少し考えてから、観念したように溜息を吐いた。
「………愛。わかった。ちゃんと話す。
……………よく聞いてね。実は………」