いと。
私が生まれた頃の父は一軒のレストランを、オーナーシェフとして経営していた。
『家族が笑顔になれる食事の場を作りたい』
早くに親をなくした父は懸命な努力の末30代手前で店を持ち、その夢を母とともに形にしたそうだ。
それはそれは仲のいい夫婦だった…らしい。
でも……私が産まれたことで全ての歯車が狂い、母を失い、夢を失い、経営することだけにのめり込むように没頭していった。
……そこまでが私が母方の祖母から聞いた話だ。
父と一緒に食事をしたことはないし、まして父が作った料理なんか食べたこともない。
ちゃんと会話した記憶もない。
あるのは、私を見るその目。
怒り、悲しみ、蔑み、憎しみ、諦め…嫌悪。その全てをかき混ぜて塗りたくった目つきでいつも私を見た。
小さな頃はそれがわからず、一生懸命好かれようと笑顔で接した。
でも事実を知り、愛されるわけがないと悟ってからはそれもやめた。
名前で呼ばれることも断固拒否した。
一緒に暮らしたイメージもほとんどない。小学校までは父の姉、つまり叔母さんが生活全般をサポートしてくれていたけど中学生になると断って全部自分でしていた。
そして知らぬ間に父は会社を一軒のレストランどころかどんどん規模を大きくしていった。
高校に入ると私名義のマンションを与えられ、生活費と学費が振り込まれるようになる。
その頃にはもう、誰にも本当の名前では呼ばせなかった。
……それが恋人だとしても。
やがて社会に出た私はそのマンションを売り払い、自分でマンションを契約して生活を始めた。
最後に父に会ったのはマンションを売ったお金を渡しに会社に行った時だ。