いと。
「今までお世話になりました。父親でもないのに義務を果たしてくださったことに感謝します。」
窓の外を見つめたままの父にそう言って札束の入った封筒を置くと父はこう言った。
「…男と別れたそうだな。ま、本当の名前を呼ばせないような女だ。男もその程度だったんだろう?」
……やっぱり。卒業と同時に彼と別れたこと、知ってたんだ。
「相変わらず悪趣味なことをしてるんですね。高校生の頃からずっと見張られてる気はしてたけどまだそんなことしてたんだ。」
「大事な大事な一人娘だ。心配して何が悪い?……なぁ、愛。」
薄ら笑みを浮かべて私の方を振り返った父に、この時は心底嫌気がさした。
「…その名前で呼んでいいのはあなたじゃない。」
「ほぅ、じゃあ誰ならいいと?
まさか、『いつか出逢う本当に愛しい人』なんて言うつもりか?」
くっくっくとバカにした笑いを浮かべるその姿を見て…私はもう我慢できなかった。
「…全てはあなたが母を守れなかったことから始まった。
それを私のせいだと!?
じゃあどうして母にしたように私を捨てなかったの!?
いっそ、そうしてくれればよかったのに!
こんな風に飼い殺しして何がしたいの!?
もうたくさん!
……金輪際ここにはこない。
あなたにも会わない。
娘は死んだと思ってください。」
これで終わりだ。
全て、終わり。
この時はそう思っていた。
決別を決めた帰り際、私の背中に父がかけた言葉はこうだった。
「せいぜい好き勝手できる時間を謳歌しろ。」
……父らしい捨てゼリフだった。