いと。
キッチンでグラス一杯の水を飲み、隣に座る。
すると彼女は静かに、語り出した。
「薫さん…。
私の名前はね、『アイ』じゃなくて『いと』。『愛しい』のいと。
ちゃんと言わなくてごめんなさい。
…どうしても言えなかった。
この名前は…私にとって愛されない証だから。」
一粒の涙も流さず、ただただ淡々と、彼女はその背負ってきてしまった運命を語った。
聞いていてこみ上げる怒りは彼女の父に対するものなのか…違うどこかに向けるべきなのか、わからなかった。
ただ、そんな過酷な運命と向かわざるをえなかった彼女を思うと胸が張り裂けそうだった。
俺が癒してやりたい…心から愛して、幸せにしてやりたい…そう強く願った。
そして気づいた時には俺たちは自然と肩を寄せ合い、俺の手はブランケットごと、彼女の背中を撫でていた。