秘密の記憶は恋の契約
言葉少なに、会社へ戻る私たち。


(いろいろ聞きたい気もするけど・・・)


さっきの綾部くんの様子を見たら、佐々木さんのことは聞けないと思った。

それでも、微妙な空気に耐え切れなくて、差しさわりない話題を彼に振る。

「あ、えっと・・・天気がいい日は、外回りも気持ちいいね!」

「・・・そうだな」

私の必死の声掛けに、微妙な反応の綾部くん。


(・・・なんか、完全に滑った気がする・・・)


天気の話題さえ、空回りするこの空気。

さらなる話題が見つからなくて、私はうつむいて口を結んだ。

そのまましばらく無言で歩き続けていると、彼はおもむろに話を始めた。

「・・・佐々木さんと別れたのは、もう3年以上前。連絡先も消してあったし、おまえは何も気にするな」

「え・・・」

動揺がバレたのだろうか。

私が触れないでいた話題を、彼はあえて口にした。

「べ、別に・・・気にしてないよ!元カノの一人や二人、綾部くんならいるでしょう」


(・・・そうだ)


元カノの一人や二人、綾部くんならいて当然。私にだって、元カレはいる。

過去の恋人の存在は、この歳になったらいる確率が高いもの。
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