秘密の記憶は恋の契約
それから。

私たちは、「急いで来たから」と会社に置いてきた綾部くんのカバンを取りに戻ってから、再び桜木町駅に向かって歩いた。

駅に着いたとき、何気なく辺りを見渡したけれど、当然のことながら、山崎さんの姿はなかった。

二人で電車にのり、同じ最寄り駅で下車すると、綾部くんは私の手を取って「送って行く」と言ってくれた。

「疲れてるならタクシーでもいいけど」

「ううん・・・歩いて帰りたい」

彼の問いかけに、私はそう言って首を振る。

もちろん疲れてはいるけれど、綾部くんと一緒なら、歩くのも全く苦にはならない。


(なにより、長い時間一緒にいることが出来るもんね)


付き合うと約束をした日は、確かタクシーだったっけ。

初めて手を繋がれて、車内で指を絡めてきたんだ。


(あのときはかなり動揺したけど・・・あれから、まだ一か月くらいしか経ってないんだな)


なぜかすごく遠い日のように感じて、私は当時を懐かしむ。

物思いに耽る私を、彼は怪訝そうにのぞき込んだ。
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