秘密の記憶は恋の契約
待ちに待った、花火デートの土曜日の午後。

綾部くんとの約束は、夕方の17時。花火会場の最寄り駅。

私は、当初の計画よりも少しのんびりとしたスケジュールで、電車で30分ほどかかる実家マンションを訪れ、デートの準備に取り掛かっていた。

「久しぶりだからどうかと思ったけど。似合ってるわよ、浴衣」

ほのかに畳の香りがする和室。

浴衣を着付けてくれた母は、鏡越しの私に言った。


(うん・・・そうだな)


黒地に紫の蝶と花柄をあしらったデザインは、20代前半の時に、とても気に入って買ったもの。

今の私には似合わないかな、と少し不安だったけど、着てみると、意外にもしっくり馴染んで結構なかなかいい感じ。


(新調しようかとも思ったけど・・・時間もお金もなかったもんね。これなら買わなくて正解だったな)


髪型は、浴衣に似合うようにと考えて、三つ編みをアレンジしたアップスタイルにした。

母が買っておいてくれた和柄リボンのバレッタが、まとめ髪になかなかかわいくきまっている。

「うん。いい感じだね。ありがとう!」

鏡の前でくるくる回り、髪型や帯の結び目をちらちらチェックしていると、4つ下の妹、美乃里がひょこっと顔を出す。

「やーだ、お姉ちゃん。デートだからって気合い入れすぎ」

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