秘密の記憶は恋の契約
「彼とデートなら、晴れでも雨でも楽しいわよ」

私と美乃里の会話に、母がウキウキしながら口を挟む。

「付き合いたてなんでしょう?デートに遅れないように、ほら、そろそろ行きなさい」

日焼けをした素肌から、にいっと白い歯を見せて笑う母。

私は「うん」と頷いて、美乃里から借りた巾着カバンを手に持った。

「お父さんも、仕事じゃなければよかったのにね。お姉ちゃんの浴衣姿なんて、そうそう見ることできないのに」

「ねえ」

「・・・いいよ。恥ずかしい」

そんな会話を交わしながら、私たちは和室を出て行き廊下を進む。

事前に用意しておいた赤い鼻緒の黒い下駄が、玄関で私を待っていた。

足を入れ、久しぶりに履くその感触は、少しだけヒンヤリとして、なんだかとても心地良い。

「じゃあ、行ってらっしゃーい!楽しんできてね」

「うん。いろいろありがと。行って来るね」

見送ってくれた母と美乃里に手を振って、私は待ち合わせ場所である花火大会の最寄り駅へと、カコンカコンと下駄を鳴らして歩いて行った。





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