秘密の記憶は恋の契約
満腹で花火大会兼お祭り会場を後にした私たちは、電車に乗って、お互いの自宅のある最寄り駅へと降り立った。

見慣れた自分の住む街も、浴衣姿で歩いてみると、華やかな余韻が残ってどこか特別感がある。

「送ってくけど。疲れただろ。タクシーにするか」

北口方向に歩きながら、彼は私に問いかける。

私は一瞬考えてから、「ううん」と首を横に振った。

「大丈夫。下駄で歩くのも慣れてきたし・・・歩きたいな」

「・・・そっか。わかった」

本当は、鼻緒の辺りが少しジンと痛むけど。

タクシーに乗って帰るなら、車の中でさよならをして・・・一緒にいられるのは、あと10分もないかもしれない。

もう少し、綾部くんと一緒にいたい。

そのためなら、少しの足の痛みくらい、私は全然へっちゃらだった。

「・・・って、ごめん!綾部くん疲れてる?」

「いや。別に。オレは平気」

安心させるように、彼は私に向かって笑顔を見せる。

その表情にほっとした私は、彼の腕にそっと自分の腕を絡めた。


(・・・よかった。雨も降らなくて)


もしも雨が降っていたなら、確実にタクシーになっていた。

空の天気に感謝しながら、私たちは下駄を鳴らして帰り道を歩いて行った。





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