秘密の記憶は恋の契約
私の自宅マンションが、視線の先に見えてきた。

彼と一緒に歩いていると、家への距離は魔法のように、格段に近くなっている。

「やっぱ疲れてるだろ。歩幅、どんどん小さくなってたし」

「そ、それは・・・綾部くんだってそうだったよ」

「オレはおまえに合わせたんだ」

彼が笑う。

疲れているのも、もちろんあったと思うけど、多分私は無意識に、時間稼ぎをしてしまった。

「人も多かったしな。浴衣も下駄も慣れなかったろ。今日はもう、風呂に入ってゆっくり休め」

「・・・うん・・・」


(・・・終わっちゃう・・・)


今日の時間が、ここでもう、さよならをしたら終わってしまう。

もっと。まだ、私は彼と一緒にいたい。


(綾部くんは・・・寂しくないの?)


ぎゅっと切ない想いに駆られ、私は彼を見上げるけれど。

「じゃあな」

そう言って、綾部くんは私の髪を優しく撫でて、頬に軽いキスをする。

そしてそのまま右手をあげて、駅方向に踵を返した。


(!あっ・・・)


「綾部くんっ・・・!」

咄嗟に、立ち去ろうとした彼の浴衣の袖を、ぎゅっと強く引っ張った。
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