秘密の記憶は恋の契約
反省の色がない彼に、私はさらに怒りを表す。

すると綾部くんは逆切れのように、フン、と小さく鼻を鳴らした。

「あの状況をわかってねえだろ・・・。それだけで止められたオレは、逆に自分ですごいと思うぞ」

ジロリと私を睨む彼。

その眼差しに、私は思わずうろたえた。

「あの時な、おまえ、すげえかわいかったんだよ・・・」

「えっ・・・?」

綾部くんが、照れたような怒ったような顔をする。

私がポカンと口を開くと、彼は大きくため息をついた。

「・・・どこから覚えてないんだよ」

「えっ・・・と・・・お店を出たあたりから」

「・・・そんなとこからか・・・」

「はあ」と息を吐いてから、綾部くんは当時のことを話し始める。

私は何が語られるのかと、ドキドキ耳を傾けた。

あの日。同期の飲み会終了後。

予想通り、私と綾部くんは「一緒に帰ろう」ということになり、最寄り駅である桜木町に向かって二人で歩いていたそうだ。

「でも、駅に向かう途中で、おまえが急に『鍵がない』って騒ぎ出したんだよ」

「えっ」

「『カバンの中よく探せ』って言ったんだけど。全然おまえは探さなくてさ。

『絶対会社の机の中だ』とか言うから、一緒に会社に戻ったんだよ」
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