MAHOU屋
「じゃあ、質問を変えるか。どうしてこの店に来たんだ?」


それくらいならいいだろとデビルがからあげを揚げるようにカラリと言った。


「ちょっとこのお店の名前に惹かれて、入ってみようと思ったんです」


この店の名前は<MAHOU屋>と言う。
本当に魔法をかけてくれるんじゃないかと思ってと岩城さんは力なく笑った。


「二十六を過ぎて、そんなこと言って、馬鹿みたいですよね」


そんなことないよー! と全力で否定したのはソラだ。
キッチンからそれを応援するように、深い粉の香りがしてきた。
小麦というより、本当に粉といった感じだ。


「仕事がうまくいかなくて、地元に戻ってきちゃったんですよ。馴染めなかったんでしょうね、東京は標高の高い山に登ったみたいに息苦しかったから」


それからぽつりぽつりと静かに、けれど確かな声で岩城さんは話し出した。
ところどころチヒロにはわからない言葉が出てきて、全てを理解できなかったけれど。


岩城さんは東京で就職したけれど、半年で<ニート>になった。
大学にはいるためだったり、進学したあとの仕送りだったりで親にお金をたくさん使わせてしまったから<めんもく>のため地元に戻れずにいて、一生懸命就職先を探したのだけれど見付からなかった。
そこで<きゅうをしのぐ>ために<便利屋>のバイトをはじめて、そこでも大問題を起こしてしまい、そのタイミングで父親が倒れたらしく、それを理由にしてようやく地元に戻って来られたのだという。
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