恋愛ドクター“KJ”
 ≪仕事帰りの男女ね。年齢の感じからも、男の人が上司で女の人が部下ってとこだと思うわ。
 ほかには‥‥≫

 アスカが懸命に想像をめぐらせていると、男性はポケットから携帯電話を取り出し、どこかに連絡を入れた。かすかだが男性の声が聞こえる。
 「はい。クライアントとの打ち合わせは上手く行きました。週明けには担当者から発注のメールが入る予定です。 
 はい‥‥。 はい‥‥。
 明日の午前中には、渡辺君が報告書を仕上げておきますので‥‥。
 はい‥‥。 
 では、本日は二人とも直帰させていただきます。三武部長、ありがとうございます。
 ‥‥ははは。 明日は、部長の笑顔が見られるってことですね‥‥。
 了解いたしました」

 電話を切った男性は女性に向かって微笑むと、
 「よーし、きょうは上がりだ。
 打ち合わせは無事に済んだし、どこかで食事でもして帰るか?」
 と、女性を誘った。

 「えーっ。いいんですか~。岡本さんと二人で食事に出かけていいんですか~。うれしいです~」
 “仕事”では使わないイントネーションで女性は答えた。

 「ああ、きょうの打ち合わせが上手くいったのは渡辺君のプレゼンのおかげだから。食事くらいならお安いものだよ」

 そう答えると、さっき切ったばかりの携帯電話を右手だけで器用に開き、どこかに電話を入れた。
 「はい‥‥。6時から2名でお願いします。 
 はい‥‥。岡本です‥‥」

 レストランか何かの予約だろうか。落ち着いた口調で話す男性の横顔を、幸福そうに見つめている女性の姿があった。
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