イジワル婚約者と花嫁契約
「……っ!そんなわけじゃっ……!ただ、お兄ちゃんに見つからないよう早く来ただけです!」

あぁ、もう。
どうして素直に言えないのだろう。
健太郎さんの言う通り、早く会いたかったのに。
なのに可愛くないこと言ってそっぽ向いちゃうとか酷過ぎる。

だけどそんな私の心情なんて全てお見通しなのか、健太郎さんは堪えるように「クククッ」と喉を鳴らした。

「そうなの?それは残念。俺は早く灯里に会いたくて約束の時間より早く来ちゃったんだけど」

「……っ!」

恥ずかしがる様子も見せず、得意気にサラッと言ってのける彼に言葉が出ない。

あんな甘い台詞を冗談を言うみたいに言ってしまうんだもの。
やっぱり彼は女慣れしている、と思いざる負えない。でも――……。

「時間が勿体ない。行くぞ」

そう言って自然と差し出された手。

「……はい」

抵抗も反論もすることなく差し出された手を取った。
歩き出し、車まで向かう途中健太郎さんを見れば、少しだけ口角を上げて笑っている。
その横顔に胸が締め付けられる。
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