イジワル婚約者と花嫁契約
記憶にないママの話に口を挟まず耳を傾けた。

「灯里のお母さんは親身の俺の話を聞いてくれて、何度か家にも招待してくれた。……そして俺の両親にそれとなく俺の気持ちを伝えてくれたんだ。……本当、灯里のお母さんのおかげだよ、俺が今こうして医者として働けているのは。あの時ひねくれたままで、両親に気持ちを分かってもらえず反発したままだったら、間違いなく医者になんてなっていなかったと思うから」

目頭が熱くなってきてしまった。

私にはふたりの記憶がほとんど残っていない。
ただ優しくて、そして大好きな存在だったことだけしか。
たまに思い描いていたの。パパとママはどんな人だったのだろうって。

それが今、少しだけ知ることができて嬉しい――。

「それからうちの両親と灯里の両親が仲良くなるのに時間はかからなかった。……そして俺達が仲良くなるのも、な」

「私と健太郎さんも、ですか?」

「あぁ」

夜空に向けていた視線は私を捉える。
するとなにかを思い出したように、口元を押さえながら笑い出した。
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