イジワル婚約者と花嫁契約
そうだよね。大人になればなるほど身に染みて理解できる。
素直な自分のまま生きていけるほど、世の中は甘くないって。
自分を偽るスキルも身に着けていかなくちゃいけないって。

「……ごめんなさい。私、健太郎さんのこと二重人格とか言って」

あの時は健太郎さんの表面しか見ていなかった。
だからといって言っていい言葉ではなかった。

「アハハ、なに今更。……別に本当のことだし」

「でも……」

「もういいから」

そう言うと健太郎さんは私を抱き寄せる腕の力を強めたものだから、それ以上なにも言えなくなってしまった。

「数年後、高校を卒業したあと、養護施設に灯里に会いに行ったんだ。だけど灯里は既に一之瀬さんに引き取られた後だった。……後悔したよ、なんでももっと早く会いに行かなかったんだろうって。……自分の中で変なプライドが邪魔をして会いに行かなかった自分を悔やんだ。……ただ医者への道を一歩踏み出してから会いに行こうっていう変なプライドを恨んだ」

健太郎さん……。
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