イジワル婚約者と花嫁契約
なんて言って断ればいいか悩んでいた手前、お兄ちゃんの申し入れには必然的に声が弾んでしまう。
するとお兄ちゃんは疑うような目で私を見てきた。

「……なんだよ灯里。そんなに俺とデートしたくなかったのか?」

「そっ、そんなわけないじゃない!」

必死に否定しようと思うほど、つい声に力が入ってしまう。
そんな私にますますお兄ちゃんの視線が突き刺さる。

「だっ、代表!では早速お願いします!」

ちょうど就業時間終了を知らせるチャイムが鳴ると同時に、千和さんはお兄ちゃんに「早く行きましょう」と言わんばかりに歩き始めた。

「あっ、あぁそうだな。……灯里!今度の休みは絶対に俺とデートだからな!」

「分かったよ。ちゃんと予定空けておくね」

するとお兄ちゃんは後ろ髪を引かれるように、何度も振り返って私を見ては渋々オフィスへと戻っていった。

「焦った」

ふたりの姿が見えなくなると同時に漏れてしまった言葉。
大きく肩を撫で下ろした。

千和さんのおかげで助かった。
千和さんがあぁ言ってくれなかったら、断る術なんてなかったもの。
でも――……。

「あのふたり……なにか進展があるといいな」
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