形なき愛を血と称して。【狂愛エンド】
「僕に、死んで欲しくないって思っているのなら」
そこに愛情を孕んでいるのではないかとは、言葉に出さなかった。
言葉に出さずとも、分かっていたからだった。
トトの愛情を利用しているからこそ、成り立つ横暴。
嫌われたと思っていたが、まだ愛されている。
「ほら、きちんと舐めなさい。下まで垂れた」
へそまで下りた血液を追うトトだが、急に俯き、許して下さいと弱々しく訴えている。
「許すも何も、僕は君を愛しているだけだ。君の好きな血液を与え、君の延命のために自分の身を削っている。僕ほど君に尽くす奴はいない」
「出して下さい……」
「……」
「出して……」
「出て、どうする?」
「……」
「答えられない。答えを想像したくもないよねぇ。そんな格好で外に出て、助けを求めるか?君の体じゃ、他の男の慰み物になるだけだ。サキュバスの体であること、いい加減、自覚しないとねぇ。女に助けを求めたところでも、その羽と角で化け物扱い。この世界に君の居場所はない。僕が作ったここしか、君の居場所にはなり得ない。
元の世界に戻ったとしても、グランシエル家は没落した。そうでなくとも、君はあちらで迫害されていたのに、これでより、行ける場所はなくなった。
君はここにいるしかないんだ。感情に任せて逃げ出す君を野垂れ死になんかさせたくないから、こうするんだよ」
ここに閉じこめるのは、必要なことだと彼は言う。
「受け入れればいい。そうすれば、今の状態が君にとって、どれだけ好都合であるか分かるはずだ。餌が勝手にやってくる。吸血鬼として血液を求め、淫魔として悦楽を求め、それらを満たすことが出来る人材がここにいる。カウヘンヘルム家の血液は極上であり、悦楽にしてもそこいらの下賤な男ではなく愛した男から与えられるんだ。君に何の不都合がある?逃げ出す理由なんか、どこにもないはずだ」
諭す彼を、彼女は見ることもしない。床を濡らしていくのみ。
リヒルトが憤りを覚えるも、すぐにかき消されたのは、トトの答えを当の前から聞いているからだ。
「僕の自傷なんか、君のために比べたら些細な物なのに」
自身に傷を作らせたくないトトの気持ちは知っていた。
だからこそ、オロバスと取り引きしてでも、離れたがる。
トトの愛情の表れだが、それはこちらの愛情と大きく食い違う。
「互いを大切に思っているからこそなのに、どうしてだろうね……」
ふと出た呟きは、トトの顔を上げさせるまでの響きを持っていた。
優しい音色。かつて、自身を『気持ち悪くない』と言ったそれと似ていた。
彼の名を呼ぶ。前のような生活に戻れるのかと期待こもった呼びかけは。