形なき愛を血と称して。【狂愛エンド】
「身を削ってまで、人を愛することは間違っているわけがないのに」
“ぼとり”と、トトの目の前に落とされた物が答えとして与えられた。
「こんなことをしても笑顔でいられるほど、君のことが好きなんだ」
前のようには戻れない。
戻れない場所にまで、来(愛し)てしまった。
「人間(こちら)の世界ではね、生涯の愛を誓い合った者は、左手の薬指に指輪をするんだ。けれども、そんな一般的(程度)の愛じゃ、僕の想いは収まらない。君のために、身を削る。命すらも惜しくない。口ばかりだとは思われたくなくてねぇ。左手薬指に相手に愛された証を残すだけじゃ、足りない。満足出来ない。僕はその程度の気持ちで要るわけじゃない。僕は君の物だという証として。
ーーだからね、“その指”を好きにしてほしいんだ」
暗がりでも否応なしに分かる目の前。
トトの絶叫を引き出すには、十分な素材だった。
どうして、気付かなかったのか。
彼の手に包帯が巻いてあることに。
他の指と比べて、“寸足らずの物”があることなんか一目瞭然だった。
気付かなかったんだ。初めて、リヒルトの顔を見たから。
嬉しそうに笑う、その顔を。
「少し、お仕置きをしよう。一週間、僕はここに来ない。それまで、その薬指で食いつなぐんだよ。血液だけじゃなくて、皮も肉も、骨になってもしゃぶりついて、空腹を満たせばいい。手の拘束は解いたままにしよう。足が使えなければ、逃げられる距離も高が知れている。ああ、まだ食べたりない時は呼べばいい。すぐにでも、次の指を用意しておくからねぇ」
くつくつと笑う彼は、トトの絶叫に背を向ける。
「楽しみだねぇ。僕の指を骨までしゃぶる君を見るのは」
パタリと閉める扉の音さえも、トトの泣き声に消されてしまう。それほどの訴えを起こしても、現状は変わらない。より最悪な方向に行くことに、彼女は耐えられなかった。
吸血鬼である自分を呪ったのは何度目か。
普通に愛されたかった。愛したかった。
つい前まではそれも叶い、温かい毎日があったのに。
「わたしが、わたしが……!」
彼にこんなことをさせている。
「わたしのせいでっ」
吐き出された慟哭は、自身を責めるばかり。間違っていたとは思いたくない。けれど、彼にこんなことをさせてしまったことを正解としたくない。
間違っていたのは何。
正しいことはどこに。
「もう、やだ……!」
教えてくれる人がいないからこそ、彼女は自身で答えを出す。
自身を責めるばかりの彼女が出した答えは、無論のことながらーー更なる悲劇を生むものでしかなかった。