冷徹なカレは溺甘オオカミ
◇ ◇ ◇
11月も半ばになってから、気温がぐっと下がってきた。
ストールを指先で調整しながら顔をあげると、横断歩道の信号が点滅していたので潔く立ち止まる。
向かい側にある信号をぼんやり眺めていたら、後ろから軽く肩を叩かれた。
「あ、矢野さん」
「はよー、柴咲さん」
「おはようございます」
小さく会釈しつつ挨拶を返すと、矢野さんは「今日は寒いねー」なんて言いながらわたしの隣りに並ぶ。
すぐにあることを思いたったわたしは、トレンチコートの襟を立てて肩をすくめている彼へと再び視線を向けた。
「あの、矢野さん。ディナークルーズのチケット、ありがとうございました」
今度は、深々と頭を下げる。
一応あのチケットは印南くんがもらったものだから、わたしからお礼を伝えるのは当日以降の方がいいのかなって思っていたんだ。
矢野さんは一瞬きょとんと目をまたたかせて、それでもすぐに笑顔を見せてくれた。
「ああ、いいえー。つーかなんか逆に悪かったね、お下がりって感じで」
「いえそんな……とても、楽しかったです」
口元に笑みを浮かべてそう言えば、なぜだか彼がとたんに遠い目をする。
「あーそっか、おとといが予約の日だったもんね。俺なんて……その日家でひとりで飲んでたわ……」
「……なんか、すみません」